レッスン業20年!
2022.01.18 update
遅ればせながら、あけましておめでとうございます!
新学期も始まってホッと一息ついたところで、ふと、今年は私がレッスンのお仕事を始めて20年目だ!と気付きました。
いやいや・・時が流れるのは早いものです。
就職試験で島村楽器を受けた日を昨日のことのように思い出します。
私は教育学部の教員養成課程出身ですが、学校という枠組みの中ではなく、社会の中で広く音楽に関わりたいという思いが在学中にどんどん強くなり、音楽に関係する一般企業への就職を目指していました。
そんな中で最初に受けたのが、島村楽器の講師採用試験だったのです。(合格した後でインストラクター試験が別にあることを知り、変更をお願いしたのですが^^;)
その時の社長の話にとても感銘を受けたので、採用通知をいただいてからは他の企業を考えることはありませんでした。
「楽器を売っているのではなく、音楽の楽しみを売っている。
だから教える人の力が必要である。
音が苦になるようなレッスンはしてはいけない。
自分が受けてきたレッスンの再現をしてはいけない。」
独立して自分の教室でレッスンを行うようになってからも、ずっとこれらの言葉を忘れずにいます。
そして私が最近特に大切にしているのは、おひとりおひとりが持っているものを大切にしながら、のびのびと豊かな音楽体験を重ねて行けること。
レッスンというお仕事に長く携わるほどに、それぞれの得意なことと苦手なこと、好み、性格などの違いを、型にはめてしまうよりも生かした方がhappyだし面白い!と思う気持ちが強くなりました。
函館へ引っ越してきて5年が過ぎましたが、私が大切にしていることや目指しているものを深く理解してくださる方が足を運んでくださるようになり、日々とても楽しくレッスンさせていただいています。
そして、私自身が学びを深めるほどに伝えられるものが増えるということも実感しているので、今年もたくさん勉強していきたいと思います!
フルートを奏でることが、皆さんに豊かなものをもたらしてくれますように。そのお手伝いができましたら幸いです。
体験レッスンやレッスンについてのご相談は無料で受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせ下さい^^
今年もどうぞよろしくお願いいたします!
(近年、古楽の勉強にも力を入れています。新年早々どちらの楽器を買おうか悩み中♪)

ジョン・レモーネとラドクリフフルート。
2021.12.05 update
ジョン・レモーネ(John Lemmoné)というフルーティストをご存知でしょうか?
1889年(明治22年)、エイミー・シャーウィン英国歌劇団(Amy Sherwin and English Opera Company)の一員として来日。横浜で10回、東京で1回のコンサートが行われたそうで、その際に「ハンガリー田園幻想曲」や「ヴェニスの謝肉祭」が演奏されたという記録があり、おそらくこれが日本初演であろうと言われています。
私がこのレモーネさんに興味を持ったのは『「牧神の化身」とまで讃えられた名手である』との記述を読んだから。
‥レモーネは牧神が人間に生まれ変わったものといえる。
呼吸と指使いの魔術によって、
楽器は目を覚まし、
隠されている場所の秘密の全てを披露してくれる。
‥彼のフルートは、大きな悲しみを持ち、
誰もが持ち得ないような気持ちを伝える微妙で鋭い方法で、
人の心を映し出す。
(Leonardo De Lorenzo著「 My Complete Story of the Flute」 訳は近藤滋郎著「日本フルート物語」より)
その演奏を聴いてみたくて録音を探したところ、復刻CDが発売されていたものの今は手に入らず。YouTubeでSPレコードからアップされたものをいくつか見つけることができました。その中から、レモーネが得意にしていたと言われているブリッチャルディの奇想曲「風」を。なんと1910年の録音です!
(生徒の皆さん!よく解説しているあの左手親指のキーを発明した人の作品ですよ!笑)
私は古い録音が好きで色々と聴いてきましたが、この演奏には大きな衝撃を受けました。
以前ジェフリー・ギルバートの記事で紹介したように、当時イギリスには良いフルート奏者がおらず、レコーディングの度にフランスからモイーズやルネ・ル・ロワが招かれたと聞いていましたが、それよりも前の時代にこんな演奏家もいたのか!と驚きでした。
ちなみに、レモーネは1868年オーストラリア生まれ。22歳でデビューリサイタルを成功させ、1894年にロンドンのエラールホールでリサイタルを開いた後、イギリスを中心に活躍。同郷であることからソプラノのネリー・メルバとの関係も深かったそうです。メルバがピアノを弾いている録音があるとの記述もあったので探してみたら、なんと!
私がお手伝いさせていただいている「マルセル・モイーズ研究室」の松田さんのチャンネルの動画が出てきました!
(今まで気づかずスミマセン・・そしてまたまた貴重な音源をありがとうございます!)
そしてこの動画の中でも使われている復刻CDのジャケット。ちょっと変わったところに見慣れないキーがついていると思いませんか??

レモーネはラドクリフシステムフルートと呼ばれるものを使っていたとか。
ラドクリフフルートは円筒管で全てのトーンホールにキーがついているので、一見ベーム式のようにも見えますが、キーシステムとしてはベーム以前のフルートをベースにしているようです。ただし、ボアや頭部管、音孔の計測値はベーム式と同じように作られているため、聴いた印象はかなりベーム式に近いかと思います。
この楽器はルーダルカルテ社が製造していたということで調べてみるとまたまた興味深いことが!

こちらは1922年のカタログですが、表紙をめくって最初のページにあるのがこのフルートたち!

「モダンフルート」と書いてあるけれど、今の私たちが言うモダンフルートとはちょっと違うようで。
上から1本目はなんと、カバードキーがついているけれど、8keyの運指で吹けるフルート!?
(いやぁ・・私、初めて知りました・・ちょっと吹いてみたい・・)
そして、レモーネが使っていたラドクリフフルートの銀管に、GUARD’S MODELというのも似た楽器のようですが、この3本は下に行くにつれて、ベーム式の取り入れ度が上がっているようです(そしてページをめくるとようやくベーム式が登場します)。
このカタログから読み取れるのは、どうやら運指の面でベーム式に抵抗のある人がイギリスにはたくさんいたのであろうということ。アマチュア奏者が多かったことも理由のひとつかもしれませんが、一方フランスでは、Tulouのようにベーム式に反対した人たちは、失われる美にこだわっていたように感じます。
何はともあれ、前回記事にしたCouesnon社に続き、Rudall Carte社でもベーム式ではない楽器がこんなにも長く販売されていたのはとても興味深く(上述の3タイプのフルートは1931年のカタログでも確認できました!)、またその楽器を駆使した演奏を聴くことができるというのも大変貴重なのでご紹介させていただきました。それではまた!
(カタログ参照元http://www.oldflutes.com/catalogs/RC/thumbnails.html)
Couesnonのクラシカルピッコロ。
2021.10.08 update
私は古い楽器が大好きですが、「楽器は奏でてこそ」というのがモットーで、収集することにはあまり興味がなく・・
出番のない楽器はどなたかに使ってもらえた方が幸せだと手放すことがほとんどなのですが・・
めずらしく、使用機会のなさそうな楽器を購入しました!!(笑)
(もちろんひっそりと練習はします!!)
タイトルにある通り、Couesnonのクラシカルピッコロです!
じゃじゃん!

だいぶ薄くなってはいますが、素敵な刻印も読み取れます。

この楽器をオークションで見つけた時、「わぁ!こういう楽器Couesnonのカタログで見たことある!」と大興奮。
そのカタログがこちら。

このカタログは1912年のものなのですが、この時期にクラシカルも販売されていたということがとても印象的で記憶に残っていたのです。ちなみに、このカタログのフルートのページには、フランスでよく使われた5keyに、Tulouモデル、円錐木管なども!

時代はすっかり銀のベーム式になっているかと思いきや、Tulouが、また古くはDevienneがそうであったように、新しい楽器が発明されても「いやいや、昔のがいいんだよ!」なんて言いながら使っていた人がいたんだろうなぁと想像すると、とても親近感を覚えます。
こういったベーム式以前の楽器はいつ頃まで販売されていたのだろう?と気になり辿ってみたところ、
こちらが1928年↓

そして1934年にも’Historique’として掲載されていたことが確認できました!(そのあとはCouesnonのカタログそのものが見つからなかったので、もし情報をご存知の方がいらっしゃいましたらお教え下さい!)

(1932年と1934年のカタログはこちらからお借りしました。http://jeanluc.matte.free.fr/cat/catmenu.htm)
そして1934年のカタログには、私がメインで使っているフルート、Couesnon Monopole Conservatoiresも発見!
この楽器に関しては、モイーズ研究室の方に記事を書かせていただきましたので、ぜひこちらもご覧ください^^
マルセル・モイーズ研究室Blog
「Couesnonのカタログを辿ってみました。」
https://marcel-moyse.amebaownd.com/posts/21916116
増永弘昭先生の思い出
2021.07.02 update
私は学生時代に数回、増永弘昭先生のレッスンを受講させていただきました。先生がお亡くなりになる1〜2年前のことだったと思います。大阪出身の先生は私のことを「姫路のおばちゃん」(弱冠ハタチでしたが。笑)と呼んで、気さくに、でもとても熱心に教えてくださいました。
でも、みなさんご存知の通り、私はそのあと昔のフランスの楽器や奏法を研究するようになり、せっかく先生が教えてくださったH・P・シュミッツ氏から受け継がれたドイツの伝統を生かせなかったことを申し訳なく思っていました。
そんな中、モイーズモデルのフルートを持ち、奏法を考えている時に、ふと、
「このリッププレートがちょっと苦手なんだよなぁ。
あっ!増永先生が教えてくださったアレをやってみよう!」
と閃いたのです。(きっとレッスンを受けられた方はお分かりのはず!)
一般の方がやると楽器を壊す可能性もあるので詳細は明かしませんが、リッププレートのカーブを変えるというもの。残念ながらモイーズモデルにはその方法は合わず、本来の設計を生かすためエッジに近づけるよう自分の奏法を変えた方がいいとわかったのですが、先生のこういったアイデアの数々を懐かしく思い出し、インターネットで色々と調べていたらこのような本が出版されていたことを知りました。

〜フルートは歌う 増永 弘昭〜
「日本を代表するフルーティストのひとりとして国内外で活躍し、2001年に若くして逝去した増永弘昭氏を偲んでのCD付き書籍。
氏が遺した論文や生前とりくんだフルート頭部管の発明にかんする解説にくわえて、多数の訳書を手がけた師H.P.シュミッツ氏からの手紙、音楽界から寄せられた追悼文などを1冊にまとめ、リサイタルのアンコール曲を中心に著者の演奏を収めたCDを付けたもの。」
まえがきには、病床でもフルートのことを考え続け、この本に収められた遺稿論文を書き上げられたことが奥様の言葉で記されていて胸が熱くなりました。
その中に、
「・・・ベーム式にはどこか欠陥があると考えており、もっと楽に音が出るようにするにはどのように改良したらよいかを長年考え続けておりました。この改良がフルートを勉強する方のお役に立てるものになるかどうかはまだ未知数ですが、主人のフルートに対する情熱を改めて感じております。・・・」
とありました。
私がモイーズモデルを研究しているのにも同じような理由があって、フルートで、もっと無理なく美しく、豊かな音楽を奏でられる可能性があるんじゃないか、といつも考えています。
最近、モイーズ研究室にアップされた室長のコラムでベーム式について取り上げられていましたが(「なぜモイーズはリングキーフルートを『ナンセンスだ』と言ったのか?」https://marcel-moyse.amebaownd.com/posts/18703116)、モイーズの考えやアイデアについて、先生ともお話できたら楽しかっただろうなぁと思います。
(先生はこの本↓の訳者でもいらっしゃいます!)

冒頭にも書いた通り、先生にレッスンしていただいたことを生かせず申し訳ない気持ちがありましたが、もしかすると、常識にとらわれずに探究していくことは先生に教わったのかもしれないと、遺稿論文を読んで感じました。
教えを受けるというのは、伝統や技術や哲学を継承するだけではなく(もちろんそれもとても大切ですが)、情熱を受け取りながら、背中を見て育つような部分がたくさんあるのだと思います。
私が増永先生のレッスンを受けたのは数回でしたが、その中でこんなにも伝えてくださっていたことに感謝しながら、これからも心の中で「先生!これ、いいアイデアだと思われませんか?」とお話しさせていただこうと思います。
鼻から息は抜ける?抜けない?
2021.06.17 update
私は学生時代に、H・P・シュミッツの本をいろいろと読んで実践していたのですが、その中のひとつに「軟口蓋で鼻腔を閉じる練習」というものがありました。

シュミッツ氏は、フルートを吹く時には息が鼻から逃げないように軟口蓋を閉じることを推奨し、その練習法も提案されています。私もこの本を読みながら、書いてある通りに「ンガ、ンガ」と言う練習を重ね、閉じることを習得できたのではないかと思います。
しかし。
私はフランスのフルートを吹く中で、求められている息が違うように感じ「あれ?ふわっとした息を鼻へ抜いた方が響きが綺麗じゃないかな??」とやってみたところ、なかなかよい感じ。
でも、自分の感覚だけで確証がなかったので、ひっそりと研究していたのですが、たまたま手に取ったミシェル・デボストの本で、その件に関する記述を発見しました!
「タンギングをするとき、ふつうすでに鼻から息をかすかに出していなければならない。
鼻から軽く出すことで息は動き、それだけでもう円滑に流れる。」と。
(ミシェル・デボスト著「フルート奏法の秘訣(上)」より)
やはり!
フランス語的に鼻へ響きを向かわせた方がうまくいくように感じていましたが、管楽器の奏法は知れば知るほど、言語との関わりが深いなぁと思います。
例えば、私は、ドイツに所縁のある先生からは、子音をしっかり入れること、アンサンブルでも瞬間的にそのタイミングを揃えることなどを教わってきましたが、この本の中でデボスト氏は、
「アンサンブルのアタックでは、いわば母音の音を生かすために、子音をはずす必要がある。アンサンブルの印象は、アタック(子音)の同時性からくるのではなく、全ての音色(母音)が同時に響く感じから来る。」
と言っています。
他にも口腔の使い方、舌の位置など、フランスの古い楽器を吹く中で私が感じ、実践していたことについても、答え合わせになるような記述がたくさんあって、とても励まされました。
現代は、演奏スタイルや奏法もグローバル化が進み、こんな風に真逆のことを提案される場面も少なくなったかも知れません。
でも今も決して正解はひとつではなく、いろんな方法と可能性があり、その人が何を欲するかということを大切にしながら、考え、選び、自分のものにしていってもらえたらと、私は常々思っています。
この本の序文はこんな文章が記されていました。
「本書の考えに賛成しない人はかならずいるだろう。あえていわせてもらえば、そのほうが望ましい。『強い考えは、反対する者にその強さを少し伝える。(マルセル・プルースト。ピエール・ブーレーズによる引用)』
どんな分野にせよ普遍性というものがあるとしたら、私は普遍性を目ざさない。この研究は私の研究であり、バイブルではない。
しかし、よくいうように『これは私の意見である。私はそれを人に分け与える‥』」
色々な意見を知ることは、自分の答えを見つける手がかりにもなります。
ぜひみなさんにも手に取って、デボスト氏の「意見」に触れていただきたいのですが、2003年に出版された本で、残念ながら現在は購入が難しくなっているようです。
また何かの機会にご紹介できたらと思いますので、よろしければお付き合い下さい!