増永弘昭先生の思い出

2021.07.02 update

私は学生時代に数回、増永弘昭先生のレッスンを受講させていただきました。先生がお亡くなりになる1〜2年前のことだったと思います。大阪出身の先生は私のことを「姫路のおばちゃん」(弱冠ハタチでしたが。笑)と呼んで、気さくに、でもとても熱心に教えてくださいました。

でも、みなさんご存知の通り、私はそのあと昔のフランスの楽器や奏法を研究するようになり、せっかく先生が教えてくださったH・P・シュミッツ氏から受け継がれたドイツの伝統から離れてしまったことを申し訳なく思っていました。

そんな中、モイーズモデルのフルートを持ち、奏法を考えている時に、ふと、

「このリッププレートがちょっと苦手なんだよなぁ。

あっ!増永先生が教えてくださったアレをやってみよう!」

と閃いたのです。(きっとレッスンを受けられた方はお分かりのはず!)

一般の方がやると楽器を壊す可能性もあるので詳細は明かしませんが、リッププレートのカーブを変えるというもの。残念ながらモイーズモデルにはその方法は合わず、本来の設計を生かすためエッジに近づけるよう自分の奏法を変えた方がいいとわかったのですが、先生のこういったアイデアの数々を懐かしく思い出し、インターネットで色々と調べていたらこのような本が出版されていたことを知りました。

フルートは歌う 増永 弘昭

「日本を代表するフルーティストのひとりとして国内外で活躍し、2001年に若くして逝去した増永弘昭氏を偲んでのCD付き書籍。
氏が遺した論文や生前とりくんだフルート頭部管の発明にかんする解説にくわえて、多数の訳書を手がけた師H.P.シュミッツ氏からの手紙、音楽界から寄せられた追悼文などを1冊にまとめ、リサイタルのアンコール曲を中心に著者の演奏を収めたCDを付けたもの。」

まえがきには、病床でもフルートのことを考え続け、この本に収められた遺稿論文を書き上げられたことが奥様の言葉で記されていて胸が熱くなりました。

その中に、

「・・・ベーム式にはどこか欠陥があると考えており、もっと楽に音が出るようにするにはどのように改良したらよいかを長年考え続けておりました。この改良がフルートを勉強する方のお役に立てるものになるかどうかはまだ未知数ですが、主人のフルートに対する情熱を改めて感じております。・・・」

とありました。

私がモイーズモデルを研究しているのにも同じような理由があって、フルートで、もっと無理なく美しく、豊かな音楽を奏でられる可能性があるんじゃないか、といつも考えています。

最近、モイーズ研究室にアップされた室長のコラムでベーム式について取り上げられていましたが(「なぜモイーズはリングキーフルートを『ナンセンスだ』と言ったのか?」https://marcel-moyse.amebaownd.com/posts/18703116)、モイーズの考えやアイデアについて、先生ともお話できたら楽しかっただろうなぁと思います。
(先生はこの本↓の訳者でもいらっしゃいます!)

マルセル・モイーズ著「フルート アンブシューア,イントネーション,ヴィブラートの練習」

冒頭にも書いた通り、先生にレッスンしていただいたことを生かせず申し訳ない気持ちがありましたが、もしかすると、常識にとらわれずに探究していくことは先生に教わったのかもしれないと、遺稿論文を読んで感じました。

教えを受けるというのは、伝統や技術や哲学を継承するだけではなく(もちろんそれもとても大切ですが)、情熱を受け取りながら、背中を見て育つような部分がたくさんあるのだと思います。

私が増永先生のレッスンを受けたのは数回でしたが、その中でこんなにも伝えてくださっていたことに感謝しながら、これからも心の中で「先生!これ、いいアイデアだと思われませんか?」とお話しさせていただこうと思います。


鼻から息は抜ける?抜けない?

2021.06.17 update

私は学生時代に、H・P・シュミッツの本をいろいろと読んで実践していたのですが、その中のひとつに「軟口蓋で鼻腔を閉じる練習」というものがありました。

シュミッツ氏は、フルートを吹く時には息が鼻から逃げないように軟口蓋を閉じることを推奨し、その練習法も提案されています。私もこの本を読みながら、書いてある通りに「ンガ、ンガ」と言う練習を重ね、閉じることを習得できたのではないかと思います。

しかし。

私はフランスのフルートを吹く中で、求められている息が違うように感じ「あれ?ふわっとした息を鼻へ抜いた方が響きが綺麗じゃないかな??」とやってみたところ、なかなかよい感じ。

でも、自分の感覚だけで確証がなかったので、ひっそりと研究していたのですが、たまたま手に取ったミシェル・デボストの本で、その件に関する記述を発見しました!

「タンギングをするとき、ふつうすでに鼻から息をかすかに出していなければならない。

鼻から軽く出すことで息は動き、それだけでもう円滑に流れる。」と。

(ミシェル・デボスト著「フルート奏法の秘訣(上)」より)

やはり!

フランス語的に鼻へ響きを向かわせた方がうまくいくように感じていましたが、管楽器の奏法は知れば知るほど、言語との関わりが深いなぁと思います。

例えば、私は、ドイツに所縁のある先生からは、子音をしっかり入れること、アンサンブルでも瞬間的にそのタイミングを揃えることなどを教わってきましたが、この本の中でデボスト氏は、

「アンサンブルのアタックでは、いわば母音の音を生かすために、子音をはずす必要がある。アンサンブルの印象は、アタック(子音)の同時性からくるのではなく、全ての音色(母音)が同時に響く感じから来る。」

と言っています。

他にも口腔の使い方、舌の位置など、フランスの古い楽器を吹く中で私が感じ、実践していたことについても、答え合わせになるような記述がたくさんあって、とても励まされました。

現代は、演奏スタイルや奏法もグローバル化が進み、こんな風に真逆のことを提案される場面も少なくなったかも知れません。

でも今も決して正解はひとつではなく、いろんな方法と可能性があり、その人が何を欲するかということを大切にしながら、考え、選び、自分のものにしていってもらえたらと、私は常々思っています。

この本の序文はこんな文章が記されていました。

「本書の考えに賛成しない人はかならずいるだろう。あえていわせてもらえば、そのほうが望ましい。『強い考えは、反対する者にその強さを少し伝える。(マルセル・プルースト。ピエール・ブーレーズによる引用)』

どんな分野にせよ普遍性というものがあるとしたら、私は普遍性を目ざさない。この研究は私の研究であり、バイブルではない。

しかし、よくいうように『これは私の意見である。私はそれを人に分け与える‥』」

色々な意見を知ることは、自分の答えを見つける手がかりにもなります。
ぜひみなさんにも手に取って、デボスト氏の「意見」に触れていただきたいのですが、2003年に出版された本で、残念ながら現在は購入が難しくなっているようです。

また何かの機会にご紹介できたらと思いますので、よろしければお付き合い下さい!


Couesnon Monopoleとの出会い

2021.06.08 update

<運営のお手伝いをさせていただいている「マルセル・モイーズ研究室」https://marcel-moyse.amebaownd.com/に書いたコラムをこちらにも転載させていただきます。フランスの洋銀のフルートとの出会いが、モイーズ研究室の松田さん、そしてモイーズへと繋がったお話です。>

みなさまはじめまして。

このサイトの運営のお手伝いをさせていただいているSawakoです。

私は洋銀フルートに興味を持って調べている時に室長と出会い、そこからモイーズのことを知るようになったという少し変わったルートでやってきましたので、まずは自己紹介も兼ねてそのことを書きたいと思います。長くなりそうですが、よろしければおつきあい下さい!

私は20歳ぐらいの頃から、現代のフルートにハマりきれない自分を感じていて、私はどこに行けばいいのだろう?と放浪していました。色々な楽器を試したり、古楽をかじってみたり。そんな中である時、フランスのオールドフルートを吹いてらっしゃるオーケストラ奏者さんと出会いました。

貴重なコレクションを見せていただけることになりお宅に訪問すると、そこは宝の山!!

ズラーっと並ぶルイロットなどを拝見、そしてありがたいことに吹かせていただきました。

その時にとても印象に残ったのが、初代ロットの美しさと洋銀のBonnevilleの響き。

「maillechort」と呼ばれるフランスの洋銀フルートは初めて吹いたのですが、ひと吹き惚れとでも言うべきか、一瞬にして魅せられてしまいました。

私もこれからフランスのオールドフルートを吹きたい!と1本譲っていただくことにしたのですが、Bonnevilleに惹かれつつも、やはりコンサートなどで使うのは銀のルイロットがいいんじゃないかな?と思ったりして、8000番代のルイロットに決めました。それももちろん良い楽器だったのですが、私はずーっとどこかで、洋銀のBonnevilleを忘れられずにいました。

何年か経っても気になり続けたので、あの時のBonnevilleをお譲りいただけないでしょうか?とお願いして使うようになった時は本当に感激でした。

そして。

「洋銀フルートはこんなに素晴らしいのに、どうしてみんな使わないんだろう?

 ん??そういえば、モイーズは一生洋銀のフルートだったってどこかで読んだような・・」

(検索)

チーン。チーン。

なんだ!?

おお!!確かに違う!!

それにしても、この方、どなた??

(めっちゃ気になる)

(他も見てみよう・・)

これは興味深い!!

(それにしてもどれもしっかり吹いてらっしゃるなぁ)

美しい〜!!

というわけで、実は私はこのモイーズ研究室からではなく、YouTubeから室長を知り、ぜひお友達になりたい!!とFaceBookで探し(今のようにYouTubeからリンクはなかったんですよね)、メッセージをお送りし、現在に至ります。

そして、私もCouesnonを吹いてみたくなり、最初は室長からお借りして、その後自分のものを購入し、今はメイン楽器として使っています。

が、しかし。

Couesnonは、私がそれまでにやっていたような奏法が全く通用せず、一から考え直すことになりました。これから、Couesnonのモイーズモデルが他のフレンチフルートとどう違うのか、設計コンセプト、求められる奏法など、私が5年に及び研究&修行したことを、少しずつご紹介できたらと思います。

ではでは、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

<転載終わり>

これから、少しずつ掘り下げる記事を書いていきたいと考えています。

こちらへの転載も続けたいと思いますので、よろしければお付き合い下さい!


Line公式アカウント始めました!

2021.01.31 update

すっかりご無沙汰してしまいましたが皆さまいかがお過ごしでしょうか?

私は、お休みになっている仕事もいくつかあり時間ができたので、今まで興味を持ちながらもなかなか取り組めなかったことをやってみよう!と主に古楽の勉強をしながら過ごしていました。この街には素敵なチェンバロ奏者さんがいらっしゃるので、旅に出ることができなくても専門的なアドバイスをいただけて本当にありがたいです。

最初は一昨年購入したT・ロットモデルでフレンチバロックから始めたのですが、さらに時代を遡ってみたい気持ちになり・・

じゃじゃーん!!オトテールモデル(写真上から2番目)とルネサンスフルート(写真一番上)がメンバーに加わり、ますます楽しく研究しています。

私はこの息苦しくなってしまうような世界の中で、自然とルネサンスフルートに惹かれていったのですが、ペストの収束後にルネサンス文化が花開いていったヨーロッパの歴史と重なり、不思議な縁を感じました。早くそんな時代が訪れるといいですね。

さてさて、今日みなさまにお知らせしたかったのはタイトルの通り「Line公式アカウントを始めました!」ということ。

実は現在、このウェブサイトのリニュアルを構想中で、リニュアル後はより積極的にコラムを書いていきたいと考えています。その更新情報などもお知らせできたらと思いますので、生徒さんも、元生徒さんも、それ以外の方も、どうぞお気軽にお友達追加していただけましたら嬉しいです^^チャット機能も使えますので、レッスンのご予約などにもぜひご利用下さい!

想像した以上にコロナとの戦いが長期化していますが、みなさんにおうちで楽しんでいただけることを少しずつ提供していけたらと思っています。ともに心身の健康を大切にしながら、音楽を深めて行きましょう!

友だち追加


ドガの絵画とアルテス

2020.04.29 update

「踊り子」で知られる、エドガール・ドガ(1834-1917)。

『踊りの花形(エトワール、あるいは舞台の踊り子とも呼ばれる)』(1878年頃) オルセー美術館
“Ballet – L’étoile”

そのドガの絵画に「オペラ座のオーケストラ」という作品があるのはご存知でしょうか?

『オペラ座のオーケストラ』(1870) オルセー美術館
“L’Orchestre de l’Opéra”

この作品、よくよく鑑賞するととても面白い!
まず、手前はドガと親交のあったバソン奏者、デシール・ディハウだそうですが、現代の「ファゴット」のような楽器ではなく、フランス式の「バソン」を吹いていることがわかります。私はこの時代のフランスの管楽器の独特の響きが大好きなので、大注目してしまいました。

そして、その奥にいらっしゃるフルート奏者!この方は、皆さんよくご存知のアルテスさんで間違いないと思います。アルテスは1826年生まれ。この時44歳でしょうか?アルテスはトゥルーの生徒だったので、最初は下の写真のような多鍵式のフルートを使っていたのだと思われますが、この時には銀製のベーム式を吹いているように見えます。

(有田正広氏「パンの笛〜フルート、その音楽と楽器の400年の旅」ライナーノーツより)

アルテスの教本の初版が出版されたのはこの絵から10年後の1880年。私はこの初版に興味があり、色々と調べていると興味深いことにたくさん出会いました。長くなってしまうので、それはまたいつか。(レッスンでは大いに語らせてもらっています、笑)