トーマ・ロットのトラヴェルソ

2019.09.11 update

 私がトラヴェルソを吹くようになってからもう随分と経ちましたが、実はずーっと、業界内では「蛍光灯」なんていうあだ名のつけられているアウロスの楽器を使っていました。かわいそうな名前となってしまっていますが、なかなかよくできた楽器です。(正式にはAF-3ステインズビージュニアモデルです、笑)

 けれど、以前、バロックオーボエを持って遊びに来て下さった方と合奏をして、私もそろそろちゃんとした木のトラヴェルソが欲しい!という思いが募っていたところにとても素敵な出会いがあり、私の元に、トーマ・ロットの復元トラヴェルソがやって来ました。(A=392&A=415)

 選ぶ段階でロッテンブルグモデルなど一般的なものも吹かせていただいたのですが、やはり私はトーマ・ロット。これまで吹いてきたフランスのオールドフルートのご先祖様であることを思い起こさせる優雅で軽やかな響きが気に入り迷うことなく決めました。そして、最近ずっとフルートで研究していた、古いフランスの楽器に適した発音、口腔のコンディションがそのまま生きることにも感動しています。

 フランスのピアノ奏法にはクラヴザンからの伝統があると耳にしたことがありますが、やはりフルートも、オトテールの頃から脈々と続いてきたものがあるのだということを、こうやって楽器を手にして、音を出して、実感することができました。

 私がフランスのオールドフルートに興味を持って最初に手にしたのはルイ・ロットだったのですが、その頃に買ったこちらの本を改めて読み返しています。当時はベーム以降に夢中だったのでトラベルソの時代にはあまりしっかり目を通していませんでしたが、今見るととても興味深いです。

 その後、フランスの洋銀に魅力を感じ、モイーズモデルに行き着いたのですが、そのコンセプトには共感しながらもずっとうまく扱えなかったCouesnon Model-Monopole。その問題解決の糸口もこのトーマ・ロットがもたらしてくれました。フランスの長い長いフルートの歴史に触れることで、色々なことが見えてきて、より深く、その美しさに触れることができうれしい今日この頃です。


ジェフリー・ギルバートの著書からフランス式発音を考える

2019.06.13 update

 ここで何度も書いてきたような気がしますが、私は最初に基礎を習ったのがドイツ帰りの先生だった影響か、口腔はできるだけ広く、舌は垂直に立つくらいの位置で、しっかり子音を入れる、という奏法をベースにしていました。

 けれど、フランスのオールドフルートに魅せられ演奏する中で、それではしっくりいかない感覚があり、ずっと、ひっそりと研究を続けてきました。

 今日はとーっても長く、マニアックになりそうですが、よろしければお付き合い下さいっ!

 私が、ルネ・ル・ロワに興味を持ち、その古い教本を手に入れたことは以前にも書きました。
〜ルネ・ル・ロワのこと〜
http://sawako-flute.com/flute/655/
〜ルネ・ル・ロワの教本から〜
http://sawako-flute.com/blog/668/
 このル・ロワさんの教本は本当に素晴らしく、今なお、管楽器を演奏する上で多く存在する誤解、自然な奏法を妨げるような認識の問題を、非常に論理的な方法で解決してくれるものでした。レッスンの中で紹介したら生徒さんにもわかりやすかったようで、良い変化が起こる方が多かったです。こちらでももっと掘り下げて紹介したいと思いながらも、なかなかできずにいましたが、またこれから少しずつやっていけるといいなと思います。

 さて、そんな素晴らしい教本を書かれたル・ロワさん。そう言えば、お弟子さんはどんな方がいらっしゃるのかしら、、と気になって調べたら、ジェフリー・ギルバートさんの名前を発見!!なんと!!

 私がフルートを始めて、右も左もわからなかった頃、ふるさと姫路の図書館に、「フルート奏法 成功への鍵―ジェフリー・ギルバートのレッスン・システム 」という本があったのです。当時その内容についてはまだ深く理解できなかった私。でも何か大事なことが書いてあるような気がしてコピーを取り、アンブシュア、呼吸法など、実際の奏法に関係するところをパラパラと読んだりしていたのですが、改めて開いてみると‥

 当時のイギリスの奏法ではダメだと思い、ル・ロワさんに学ぶことにした、と!!とても興味深いお話なので、少し長いですが引用します。

<フレンチ・メソードの採用>
 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団で首席奏者をつとめていた頃、ギルバートは、フルート奏法の伝統的なイギリス流メソードに真剣に疑問を持ち始めていた。レコーディングや、いくつかの重要な演奏会で自分や他のイギリス人奏者が使われないのはなぜかを問うた後、彼は、イギリス人フルーティストに偏見があることに気づいたのである。なぜ、レコード会社やBBCは、レコーディングや放送のために、ルネ・ル・ロワやアンドレ・ジョネやマルセル・モイーズのようなアーティストを外国から呼ぶのか?モイーズやル・ロワのコンサートやレコーディングを聴いた後には、消えることのない印象が残った。ギルバートは自分の演奏にますます懐疑的になった。どのようにしてこれらのフルーティストは、音の中にこんな温かみや表情を生み出すことができるのだろうか?オーケストラでユージン・グーセンスと一緒に仕事をして、ギルバートは、彼が次にロンドンに来たら、このことを話し合おうと決心したのだった。ギルバートはその時の会話を思い出してくれた。
 「彼は開口一番こう言った。『あなたはとてもよいプレイヤーだが、もし国際的な奏者として認められたければ、あなたは自分の演奏スタイルを変える必要がある。つまり、楽器を替え、他の皆がしているような奏法を学ばなければならない』」
 グーセンスからムッシュー・ル・ロワ(1889-1985)への紹介状を手に入れた後、ル・ロワが次にロンドンを訪れた時に、ギルバートのレッスンが準備された。このレッスンは、ル・ロワが滞在していたロンドンのセント・ジョーンズ・ウッドにあるグローヴ館という見事な邸宅で行なわれた。ギルバートが、彼の「パーティ・ピース」と呼ぶ、イベールのコンチェルトの数小節を吹くと、ル・ロワはすぐさま問題点を診断したのである。
 「『あなたはアンブシュアとアーティキュレーションを変えなくてはならない。正しいヴィブラートのかけ方を学ばなければならないし、新しい楽器を買う必要もある』」彼はまた最後にこうも言った。私が奏法を変えるのはとても難しく、また苦痛を伴うことだろう、特に、私がその間生活費を稼がなければならないとすればなおさらである。また、その過程にはとても長い時間がかかるだろう、と」。
 重大な決心をしたギルバートは、すぐにビーチャムに会いに行った。「彼はとても好意的で、グーセンスと同じ意見だった。そして、もし私がそれが正しいことと思うなら、私に必要な励まし(援助)はなんでも与える、と言ってくれた」。
(アンジェリータ・スティーヴンズ フロイド著 フルート奏法 成功への鍵―ジェフリー・ギルバートのレッスン・システム 第1章ジェフリー・ギルバートの生涯より)

 このあとギルバート氏は、ルイ・ロットの銀製フルートを買い、自身の奏法をフランス式に変えていきます。その中で「この変革をなすのには約3年かかった」という記述があり、私はとても励まされました。ギルバートさんでも3年かかったんだから、私も地道にがんばろう!と。

 そして、この本の中では随所に、当時のイギリスとフランスの奏法の具体的な違いが出てくるのですが、私にとってそれはとても貴重な資料となりました。

 私は、管楽器の発音はそれぞれが使っている言語の影響が大きいと常々感じています。けれど、例えば、フランス語を話す人にとって、フランス語的な発音をすることは日常の延長であり、特に意識しなくてもできること。だから、どうするとフランス的な発音ができるか、他の言語話者にもわかるような説明をしてくれるものがなかなか生まれなかったのではないかと思うのです。もうこれはフランス語を話せるようになるしかない!と考えていた矢先にこの本に再び出会うことができ、本当に助かりました(でもフランス語は勉強しなければ!)。

 さて、私がかいつまんで説明をして誤解が生じたら申し訳ないので、こちらも長いですが引用させていただきます。

<ギルバートのタンギング方法>
 1930年代の終わり頃から1940年代の初めにかけて、フランス流奏法に変える以前のジェフリー・ギルバートの最初のタンギングの仕方は、歯の後ろに舌をあてるという、今日ほとんどのフルーティスト、特にアメリカ人フルーティストが行なっている方法であった。タンギングの方法は、(アンブシュアの裏での)前方でのタンギングであれ、歯の後ろでのタンギングであれ、口蓋でのタンギングであれ、本人にとってそれがうまく機能しているのであれば変える必要はない、とギルバートは、レッスンでもマスタークラスでも述べている。しかし、もしもタンギングに問題があるならば、各人にとって最も良く機能するやり方を見つけるために、タンギングの仕方を変えてみてもよいかもしれない。
  「歯と歯の間を通って、下唇に触れながらアンブシュアの裏でタンギングしなさい」(MCT-85)

 1940年代以後のギルバートのタンギングは、歯と歯の間を通ってアンブシュアの裏に舌を当ててなされる、前よりのタンギングである。これは、舌を歯の後ろにあてるよう教えられているほとんどのアメリカ人フルーティストのタンギングとは対照的である。
 フランス流の前よりのタンギングのやり方を採用して以来、ギルバートは舌を前に出す“T”の音節を使う方法に、多くの利点をを見出した。(1)フランス語の“T”を使うと、舌先を用いて、より明瞭ではっきりした音を出すことができる。(2)フランス語風に“Tu”の発音をする-すなわち“Tooough”という-ことで、のどを自動的に開けることができる。(3)アンブシュアに近いところでタンギングすれば、舌はより正確かつ精巧に動くことができる。ギルバートは、前よりの“T”のタンギング方法をすべてのタイプのタンギング、つまりシングル、ダブル、トリプルのタンギングに使っている、と述べている。
(アンジェリータ・スティーヴンズ フロイド著 フルート奏法 成功への鍵―ジェフリー・ギルバートのレッスン・システム 第8章アーティキュレーションより)

 私はモイーズの奏法と楽器を研究して、フランス人の舌は前の方にあり、柔軟なアンブシュアと一体となって発音しているのであろうこと、私が最初に習ったような口蓋を使う方法は行わないであろうことは感じていたのですが、推測の域を超えられずにいたので、この説明によってようやく確信を持つことができました。

 ただ、ギルバート氏の言葉にあるように、「本人にとってそれがうまく機能しているのであれば変える必要はない」のだと私も思います。私は、フランスのオールドフルートを演奏する中で、どうしてもうまく行かない感覚がありここに辿り着きました。だから全ての人にこの方法をおすすめするつもりはありません。でも、以前の私のように、口蓋を使う方法では無理がかかり喉に力が入ってしまったりするなど、現代のフルートを吹く中でうまくいっていないことを抱える人にも、こんな発音法もあるということが何かしらのヒントになればいいなと思います。

 さてさて、そんなこんなで、フランス式の発音への理解を深めることができた素晴らしいタイミングで私の元にやってきたのが、T・ロット(復元)のトラヴェルソ。この発音が大いに役に立つこととなります。次回はそのことを書きたいと思います!



お問い合わせ&レッスンについて

2019.03.27 update

 春の訪れとともに、お問い合わせをいただくことが増えてきたので、以前にも投稿したことがありますが、改めて。

 いただいたお問い合わせには必ず、数日中にお返事させていただいています。もしお返事が届いていないという方がいらっしゃいましたら、メールフィルターがかかっていたり、なんらかの行き違いが考えられますのでお手数ですが再度ご連絡下さい!

 さてさて。新たに何か始めよう!と思う方がたくさんいらっしゃる春。私は、自分が大事にしたいことなどを再認識させられる機会がとてもたくさんありました。

 今のウェブサイトを作った時に、共感できる言葉を掲げたのですが、やはり私のモットーはここにある、と改めて感じています。

 サイトでは訳を載せていないので、今日はここで少しご紹介したいと思います。

Music gives a soul to the universe, wings to the mind,
flight to the imagination and life to everything. -Platon –

音楽は、世界に魂を与え、精神に翼をあたえる。そして想像力に高揚を授け、あらゆるものに生命をさずける。-プラトン-

I wish you music to help with the burdens of life,
and to help you release your happiness to others. -Ludwig van Beethoven –

音楽があなたの人生の重荷を振り払い、あなたが他の人たちと幸せを分かち合う助けとなりますように。-ベートーヴェン-

Our life is our art. -John Lennon –

これは訳すまでもないですね!

 その人らしくあること。魂が自由であること。幸せに結びつくこと。
そういうことを大事にしたいと思っています。

 ただ、音楽を演奏する上では、自由になるために、技術も必要。
練習を重ねながらも、本末転倒になることなく、音楽とともにある世界を深めていけたらと考えています。

 しばらくレッスンから足が遠のいてしまっている方の再開も大歓迎です!
みなさんにとって素敵な春となりますように。

雪解けと同時に咲いたスノードロップ。


ピアニストさんの書いた本。

2019.01.27 update

 エレーヌ・グリモーさん。昔ちらちらと聴いた時には、私には刺さりすぎるような肌感覚があって、実は少し苦手でした。芸術家として、そういう痛みを感じるようなものも伝えられるというのは素晴らしい資質だと思うのですが、あまり好んで聴くことはありませんでした。

 でもその印象が少し変わったのがこのアルバム。

 大好きなピアニスト、リュビモフさんのコンサートに行って聴いたシルベストロフ。グリモーさんの演奏もいいなぁ‥と、今のグリモーさんに興味を持ち始めた時に、新しい本が出版されていたのを知ったのでした。

 私は、自伝的なものかと思って購入したのですが、現実と夢の間を交差しているような物語が繰り広げられ、最初は少し戸惑ったものの、まるで村上春樹の世界のようでどんどんと引き込まれていきました。

 その中で、彼女が今考えていることを(と言っても日本語訳が出版されたのが昨年で、フランスでの出版は2005年だそう)、彼女に、登場人物に、語らせるのですが、その内容がとても素敵でした。

 音楽とは?芸術とは?生きるとは?

 深い深い問いの答えを見るけるための手がかりとなる、あたたかい光をくれる本ではないかと思います。

 少しネタバレになってしまいますが、キーパーソンとなるのが、バルビゼに似た「先生」。

 私は「あーっ!!!繋がった!!!」と叫びたい気持ちに!!

 この本も大好きなんです。青柳いづみこさんの「ピアニストが見たピアニスト」。

 リヒテル、ミケランジェリ、アルゲリッチ、フランソワ、バルビゼ、ハイドシェック。ピアニストだからこそできる分析と眼差し、そして青柳さんならではの文筆力で、それぞれの、ピアニストとしての孤独な戦いを私たちに教えてくれます。

 そして、この本の中で、青柳さんの師でもあるバルビゼは、「パリ音楽院を出てから大学で文学を専攻した」とあるのです。なるほど!グリモーさんの本に出てくる「先生」はまさに‥。

 音楽と文学の間を行き来する本を、二人のお弟子さんが書いているということ。これは先生からの影響なのか、ご本人の資質なのか。もちろんそのどちらも、かも知れないけれど‥。とても素敵なことだと思います。

 それにしても、お二人の著作を読めば読むほど、バルビゼさんという方は素晴らしい音楽家であり、教育者であったことが伝わってきます。

 この青柳さんの本の中に記述がありますが、バルビゼはランパルとマルセイユで同級生だったそう。プーランクのソナタの録音などもあり、探してみたらYouTubeでもお二人の演奏を見ることができました。

 私は瀬戸内生まれのせいか、マルセイユの音楽家にはとても親近感を覚えます。きっと瀬戸内と同じで、日差しも明るく、あたたかく、開放的なんだろうなぁ、なんて思いながら。

 一方で、私は、グールドが北に憧れたような思いを持って北海道へ来たわけですが、そういう音楽、音世界、についてはまた別の機会にでも!


釧路へ行ってきました!

2018.11.27 update

 以前釧路でレッスンをしていた時に、「ソノリテに書いてある、舌を外に出すタンギングをやってみたんですが、これってどうなんでしょうか?」と質問をしてくれた方がいらっしゃいました。

 レッスンでは低音の柔軟性に入る前の部分までしか取り上げていないのに、そんな質問をしてくれた方は初めてで、とても嬉しかったので印象に残っていました。

 ただ、当時の私にとって、モイーズは今よりも遠い存在だったので、「モイーズはそうしていたらしいですが、今は使わないと思います」というような答えをしたと思います。

 モイーズモデルという楽器を持って、いろいろ検証する中で、なるほどー!と思うことがたくさんあって、今ならもっと多角的に解説できるのになぁ、、と思っていたのですが、それをする機会をいただけて本当にうれしかったです。(釧路でのレッスン会場からの景色。遠くに見える阿寒の山々が懐かしい!)


 吉田雅夫さんの「フルートと私」という本にこんなエピソードがあります。吉田さんがヨーロッパでジョネ先生のレッスンを受けて、その15年後に先生が来日された時に、「お前に間違ってレッスンしたから、この場で訂正する」とバッハの解釈を訂正されたそうです。

 自分を重ねるのは本当に恐縮ですが、私も、長年研究する中で、今ならこう言うのに!と思うことが多々あります。これはあの方に役に立ちそう!と昔教えていた生徒さんの顔が浮かぶことも。

 私は、引越しによって遠く離れてしまった方がたくさんいるので、ここで少しずつ、そんな情報を発信して行けるといいなと思っています。元生徒さんは質問や悩み相談のメールも遠慮なく下さいね^^