ジョン・レモーネとラドクリフフルート。

ジョン・レモーネ(John Lemmoné)というフルーティストをご存知でしょうか?

1889年(明治22年)、エイミー・シャーウィン英国歌劇団(Amy Sherwin and English Opera Company)の一員として来日。横浜で10回、東京で1回のコンサートが行われたそうで、その際に「ハンガリー田園幻想曲」や「ヴェニスの謝肉祭」が演奏されたという記録があり、おそらくこれが日本初演であろうと言われています。

私がこのレモーネさんに興味を持ったのは『「牧神の化身」とまで讃えられた名手である』との記述を読んだから。

‥レモーネは牧神が人間に生まれ変わったものといえる。

呼吸と指使いの魔術によって、

楽器は目を覚まし、

隠されている場所の秘密の全てを披露してくれる。

‥彼のフルートは、大きな悲しみを持ち、

誰もが持ち得ないような気持ちを伝える微妙で鋭い方法で、

人の心を映し出す。

(Leonardo De Lorenzo著「 My Complete Story of the Flute」 訳は近藤滋郎著「日本フルート物語」より)

その演奏を聴いてみたくて録音を探したところ、復刻CDが発売されていたものの今は手に入らず。YouTubeでSPレコードからアップされたものをいくつか見つけることができました。その中から、レモーネが得意にしていたと言われているブリッチャルディの奇想曲「風」を。なんと1910年の録音です!
(生徒の皆さん!よく解説しているあの左手親指のキーを発明した人の作品ですよ!笑)

私は古い録音が好きで色々と聴いてきましたが、この演奏には大きな衝撃を受けました。
以前ジェフリー・ギルバートの記事で紹介したように、当時イギリスには良いフルート奏者がおらず、レコーディングの度にフランスからモイーズやルネ・ル・ロワが招かれたと聞いていましたが、それよりも前の時代にこんな演奏家もいたのか!と驚きでした。

ちなみに、レモーネは1868年オーストラリア生まれ。22歳でデビューリサイタルを成功させ、1894年にロンドンのエラールホールでリサイタルを開いた後、イギリスを中心に活躍。同郷であることからソプラノのネリー・メルバとの関係も深かったそうです。メルバがピアノを弾いている録音があるとの記述もあったので探してみたら、なんと!

私がお手伝いさせていただいている「マルセル・モイーズ研究室」の松田さんのチャンネルの動画が出てきました!
(今まで気づかずスミマセン・・そしてまたまた貴重な音源をありがとうございます!)

そしてこの動画の中でも使われている復刻CDのジャケット。ちょっと変わったところに見慣れないキーがついていると思いませんか??

レモーネはラドクリフシステムフルートと呼ばれるものを使っていたとか。

ラドクリフフルートは円筒管で全てのトーンホールにキーがついているので、一見ベーム式のようにも見えますが、キーシステムとしてはベーム以前のフルートをベースにしているようです。ただし、ボアや頭部管、音孔の計測値はベーム式と同じように作られているため、聴いた印象はかなりベーム式に近いかと思います。

この楽器はルーダルカルテ社が製造していたということで調べてみるとまたまた興味深いことが!

こちらは1922年のカタログですが、表紙をめくって最初のページにあるのがこのフルートたち!

「モダンフルート」と書いてあるけれど、今の私たちが言うモダンフルートとはちょっと違うようで。

上から1本目はなんと、カバードキーがついているけれど、8keyの運指で吹けるフルート!?

(いやぁ・・私、初めて知りました・・ちょっと吹いてみたい・・)

そして、レモーネが使っていたラドクリフフルートの銀管に、GUARD’S MODELというのも似た楽器のようですが、この3本は下に行くにつれて、ベーム式の取り入れ度が上がっているようです(そしてページをめくるとようやくベーム式が登場します)。

前回記事にしたCouesnon社に続き、Rudall Carte社でもベーム式ではない楽器がこんなにも長く販売されていたのはとても興味深く(上述の3タイプのフルートは1931年のカタログでも確認できました!)、またその楽器を駆使した演奏を聴くことができるというのも大変貴重なのでご紹介させていただきました。それではまた!

(カタログ参照元http://www.oldflutes.com/catalogs/RC/thumbnails.html)