古い楽器が教えてくれること。

私が古い楽器に興味を持つようになったのは、100年ほど前に作られたフランスのフルートに出会ったことがきっかけでした。

現代の楽器にはない美しさを感じるその響きに魅せられ追いかけるようになったのですが、古い楽器と向き合っていく中で、様々なことに気づかされました。

まず、モイーズモデルを吹くようになって知ったのは、楽器が作られた時に想定されている奏法でこそ、その真価が発揮されるということ。

ここでも何度か書いているかと思いますが、私は最初にフルートの基礎を習ったのがドイツで学ばれた先生で、まず「頭部管を内側に向けてはいけない」と教わりました。モイーズは写真でも確認できますが、めちゃくちゃ内側に向けて演奏した人。全てが対極にあるようなところから入ったのでとても苦労しました。

でもその苦労が、自分の好きな音のために古い楽器を利用するのではなく、本来の姿を生かすことを考えるべきだと教えてくれました。もちろんこの楽器の響きが好きだから吹きたいという気持ちはあるのですが、古い楽器を現代の奏法で演奏したり、現代の価値観や環境に適応させようとすると、強引にねじ伏せたり、無理やり枠に入れたりすることになり、歪みを生みます。そしてその歪みはいろいろなものを妨げます。そういった無理が生じていない状態でこそ、音楽が呼応してくれると私は感じています。

最近私がとても楽しく吹いているのが約200年前に作られたイギリスのクラシカルフルート。
この楽器が生まれた頃に書かれた教本を練習しながら吹いていると、今まで知らなかった世界が目の前に広がって本当におもしろいです。

私はトラヴェルソを始めて、まずボーランドさんの教本(http://www.muramatsuflute.com/shop/g/gG33792/)を吹いてみたのですが、その時はイギリスの曲集から引用されているものがイマイチぴんと来なかったのです。簡単な練習曲?という印象でした。

しかしそれが!昔々に作られたイギリスの楽器を手にし、当時の教本に書いてある発音や拍子の取り方を意識して吹くと、びっくりするくらい生き生きと響き始めました。

その音楽が生まれながらに持っている魅力に直接触れているような手触り‥(もちろん自分がそれを十分に再現できているとは思っていませんが)これこそが、古い楽器を演奏する魅力なのだと感じています。

音楽でも、レッスンでも、教育でも、子育てでも。

古い楽器たちが教えてくれるように、生まれながらに持った性質を歪めることなく大切にしながら、魅力を発揮してもらいたいと願っています。

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