モイーズモデルのキーについて

2022.08.28 update

運営のお手伝いをさせていただいているマルセル・モイーズ研究室(https://marcel-moyse.amebaownd.com/)に、モイーズモデルのキーについて感じていることなどを書いたところ、とてもたくさんの反響をいただいたのでこちらにも転載いたします!

現代の常識とは全く違う考え方ですが、ジストニアなどで苦労する音楽家も多い中で、モイーズの残してくれたものが何らかのヒントになれば幸いです。
(以下転載)

私は高校生の時に初めてインラインリングキーの楽器を持ち、以来モイーズモデルに出会うまでずっと使用してきました。日本人女性の中では身体も大きい方なのでそれほど苦労したこともなく、リングキーが当たり前だと思っていましたが、モイーズモデルを使うようになってその「当たり前」が大きく覆されることになったので、今日は使い始めから現在までに私が感じたことなどをご紹介させていただけたらと思います!

まずは、見た目のインパクトが大きいこの楽器の顔とも言える左手のキー。これは持った瞬間に「ラクだ!!」と感じました。私は管厚が厚く重めのH足部管フルートをメインに吹いていた時にはサポーターを使ったりしたこともあったので、ずっしりとした手応えがありながらも負担なく安定して持てることに驚きました。(欲を言うと、モイーズが使っていた楽器のように、昔のドイツフルートに見られる左手人差し指の付け根に当たる補助板もあれば完璧だったのでは?と思いますが、その位置が合わないと困るので量産タイプとしてはこれが最適なのでしょう)

意外とすんなり受け入れられた左手に対して、実は右手キーには苦労しました。キーに厚みがあるので、右手薬指と小指の関係性が今までやってきた方法ではうまく行かず、普通のスケールでも指が引っかかる状態に…。足部管の組み立て角度を色々と変えて試してみても手が痛くなるばかり…密かに困っていました。

そんな時、たまたま読んでいたトラヴェルソの教本で興味深い記述に出会い、この問題を解決できることになったのでした!

『18世紀のフルート奏者ミラー(Miller、1799年頃、p.2)は、指の先端から2.5cmのポイントで指孔を押さえることを推奨し、「指の先端で指孔を抑えて華麗に演奏することができる人を知らない」と加えている。』(ジャニス・ドッケンドルフ・ボーラント著「バロック・フルート奏法」小林伸一:訳 中村忠:監修)

私はリングキーのフルートを持つ時には指の先端の肉厚な部分を嵌め込むようにしていて、トラヴェルソも同じように持っていました。昔のピアノ教育で言われたような「手の中に卵を入れる」フォームが基本になっていたのですが、まず指を寝かせ、はみ出すことを恐れない(これ何だかすごく悪いことをしている気がしてしまいませんか?笑)ようにしたら、なんと自由なこと!!

まずはトラヴェルソでこのフォームをやってみて、その感覚でモイーズモデルを持つと!!

ちょうどキーの厚み部分が指の枕のようになってとても気持ちいいー!!

もう快眠できそうな枕!!そしてその枕の上で指は自由によく動く!!

身体は想像以上に連動するので、指先という身体の末端が自由であることが身体全体に与える影響はとても大きいように思います。このフォームはなんだか身体も心ものびのび!

私はリングキーの楽器を使っていた時にはそこに疑問を持ったことはなかったのですが、モイーズモデルのおかげで最近はすっかりカバード推しになりました。以前室長のコラムで、金属製ベームの初期設計はカバードでありモイーズモデルはそこへの回帰ではないかという話がありましたが(https://marcel-moyse.amebaownd.com/posts/18703116)、私も、全ての音孔に対しての条件が揃う方がいわゆる「モダンフルート」として理にかなっているし、モイーズが目指した響きの均質性にも一致して、なおかつ奏者の身体も自然なコンディションを保てるというのはいいことづくめだと感じています。

現代ではプロ奏者の多くがリングキーの楽器を使用しているので、アマチュアの方も憧れを持って選ぶことが多く、そのせいかカバードは入門用のように見られてしまったりもします。長い間その価値を認めてもらえなかったモイーズモデルと同様に、私たちがこうやって語ることでカバードの良さも伝わり、それぞれがもっと自由に選べるようになるといいなと思います。

モイーズモデルと向き合っていると、現代フルートの常識とは全く違う視点が多く、ひとつひとつを検証してみると、それがいかに深く考えられたものであるかということに気付きます。私がこの楽器に興味を持って調べ始めた時には「ゲテモノ」などと言われている記事が出てくるだけで、ここの室長松田さん以外にその価値を語っている人に出会うことはできませんでした。でもこの頃は、室長の地道な活動により、私より若い世代の人たちの中にもモイーズが意図したであろうことを理解して興味を持ってくれる方が増えてきて嬉しいです。

当時から常識にとらわれずに考え抜き、道を切り拓いていったモイーズ。これからもモイーズが残してくれたものをヒントにしながら、よりよく音楽できることを考えていけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします!