私は学生時代に、H・P・シュミッツの本をいろいろと読んで実践していたのですが、その中のひとつに「軟口蓋で鼻腔を閉じる練習」というものがありました。
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シュミッツ氏は、フルートを吹く時には息が鼻から逃げないように軟口蓋を閉じることを推奨し、その練習法も提案されています。私もこの本を読みながら、書いてある通りに「ンガ、ンガ」と言う練習を重ね、閉じることを習得できたのではないかと思います。
しかし。
私はフランスのフルートを吹く中で、求められている息が違うように感じ「あれ?ふわっとした息を鼻へ抜いた方が響きが綺麗じゃないかな??」とやってみたところ、なかなかよい感じ。
でも、自分の感覚だけで確証がなかったので、ひっそりと研究していたのですが、たまたま手に取ったミシェル・デボストの本で、その件に関する記述を発見しました!
「タンギングをするとき、ふつうすでに鼻から息をかすかに出していなければならない。
鼻から軽く出すことで息は動き、それだけでもう円滑に流れる。」と。
(ミシェル・デボスト著「フルート奏法の秘訣(上)」より)
やはり!
フランス語的に鼻へ響きを向かわせた方がうまくいくように感じていましたが、管楽器の奏法は知れば知るほど、言語との関わりが深いなぁと思います。
例えば、私は、ドイツに所縁のある先生からは、子音をしっかり入れること、アンサンブルでも瞬間的にそのタイミングを揃えることなどを教わってきましたが、この本の中でデボスト氏は、
「アンサンブルのアタックでは、いわば母音の音を生かすために、子音をはずす必要がある。アンサンブルの印象は、アタック(子音)の同時性からくるのではなく、全ての音色(母音)が同時に響く感じから来る。」
と言っています。
他にも口腔の使い方、舌の位置など、フランスの古い楽器を吹く中で私が感じ、実践していたことについても、答え合わせになるような記述がたくさんあって、とても励まされました。
現代は、演奏スタイルや奏法もグローバル化が進み、こんな風に真逆のことを提案される場面も少なくなったかも知れません。
でも今も決して正解はひとつではなく、いろんな方法と可能性があり、その人が何を欲するかということを大切にしながら、考え、選び、自分のものにしていってもらえたらと、私は常々思っています。
この本の序文はこんな文章が記されていました。
「本書の考えに賛成しない人はかならずいるだろう。あえていわせてもらえば、そのほうが望ましい。『強い考えは、反対する者にその強さを少し伝える。(マルセル・プルースト。ピエール・ブーレーズによる引用)』
どんな分野にせよ普遍性というものがあるとしたら、私は普遍性を目ざさない。この研究は私の研究であり、バイブルではない。
しかし、よくいうように『これは私の意見である。私はそれを人に分け与える‥』」
色々な意見を知ることは、自分の答えを見つける手がかりにもなります。
ぜひみなさんにも手に取って、デボスト氏の「意見」に触れていただきたいのですが、2003年に出版された本で、残念ながら現在は購入が難しくなっているようです。
また何かの機会にご紹介できたらと思いますので、よろしければお付き合い下さい!