私は学生時代に数回、増永弘昭先生のレッスンを受講させていただきました。先生がお亡くなりになる1〜2年前のことだったと思います。大阪出身の先生は私のことを「姫路のおばちゃん」(弱冠ハタチでしたが。笑)と呼んで、気さくに、でもとても熱心に教えてくださいました。
でも、みなさんご存知の通り、私はそのあと昔のフランスの楽器や奏法を研究するようになり、せっかく先生が教えてくださったH・P・シュミッツ氏から受け継がれたドイツの伝統から離れてしまったことを申し訳なく思っていました。
そんな中、モイーズモデルのフルートを持ち、奏法を考えている時に、ふと、
「このリッププレートがちょっと苦手なんだよなぁ。
あっ!増永先生が教えてくださったアレをやってみよう!」
と閃いたのです。(きっとレッスンを受けられた方はお分かりのはず!)
一般の方がやると楽器を壊す可能性もあるので詳細は明かしませんが、リッププレートのカーブを変えるというもの。残念ながらモイーズモデルにはその方法は合わず、本来の設計を生かすためエッジに近づけるよう自分の奏法を変えた方がいいとわかったのですが、先生のこういったアイデアの数々を懐かしく思い出し、インターネットで色々と調べていたらこのような本が出版されていたことを知りました。
〜フルートは歌う 増永 弘昭〜
「日本を代表するフルーティストのひとりとして国内外で活躍し、2001年に若くして逝去した増永弘昭氏を偲んでのCD付き書籍。
氏が遺した論文や生前とりくんだフルート頭部管の発明にかんする解説にくわえて、多数の訳書を手がけた師H.P.シュミッツ氏からの手紙、音楽界から寄せられた追悼文などを1冊にまとめ、リサイタルのアンコール曲を中心に著者の演奏を収めたCDを付けたもの。」
まえがきには、病床でもフルートのことを考え続け、この本に収められた遺稿論文を書き上げられたことが奥様の言葉で記されていて胸が熱くなりました。
その中に、
「・・・ベーム式にはどこか欠陥があると考えており、もっと楽に音が出るようにするにはどのように改良したらよいかを長年考え続けておりました。この改良がフルートを勉強する方のお役に立てるものになるかどうかはまだ未知数ですが、主人のフルートに対する情熱を改めて感じております。・・・」
とありました。
私がモイーズモデルを研究しているのにも同じような理由があって、フルートで、もっと無理なく美しく、豊かな音楽を奏でられる可能性があるんじゃないか、といつも考えています。
最近、モイーズ研究室にアップされた室長のコラムでベーム式について取り上げられていましたが(「なぜモイーズはリングキーフルートを『ナンセンスだ』と言ったのか?」https://marcel-moyse.amebaownd.com/posts/18703116)、モイーズの考えやアイデアについて、先生ともお話できたら楽しかっただろうなぁと思います。
(先生はこの本↓の訳者でもいらっしゃいます!)
冒頭にも書いた通り、先生にレッスンしていただいたことを生かせず申し訳ない気持ちがありましたが、もしかすると、常識にとらわれずに探究していくことは先生に教わったのかもしれないと、遺稿論文を読んで感じました。
教えを受けるというのは、伝統や技術や哲学を継承するだけではなく(もちろんそれもとても大切ですが)、情熱を受け取りながら、背中を見て育つような部分がたくさんあるのだと思います。
私が増永先生のレッスンを受けたのは数回でしたが、その中でこんなにも伝えてくださっていたことに感謝しながら、これからも心の中で「先生!これ、いいアイデアだと思われませんか?」とお話しさせていただこうと思います。